雨しとど 湿り風 走り去る | 逸脱と研鑽の公案

雨しとど 湿り風 走り去る

自転車通勤をふたたび、はじめてみた。

決意をしてから、梅雨のさなかであることに気づいた。

天と風と地、という不変なものならばまだしも、
うつろう季節ごときに負けて、意思をゆるがせにしてなるものか、
と、むしろ決意を固くし、決行しているのである。

もちろん、会社についてからは、
ぬれそぼまり、パーマのうねりがいつもより多めになったこともあり、
気味悪がられたが、むしろ、私はそれもふくめて爽快であった。

走り抜いて着いたこと。
雨ニモ負ケズ、であったこと。
どんなかたちであれ、リアクションを得られたこと。

やらねば、なにもおきないのだー、と
走りのぼせ筋肉優勢になった頭で、思うのぼせよう。

まあ、再開したてだから、なにかとむやみに前向きになるのもよかろう。

大事なのは、ある一日の成果ではなく、つづけることなのだから。

******************************************************************

私の一番好きな移動手段は、歩くことである。
特に、登るのがすきだ。
山とかで、どうかしら、と思うくらいの斜面を、大股で登ると、
「おいおいスイスイだなぁ」と馬鹿に感心してしまう。
下りは楽だが、膝が痛いし、
バランスとスピードの妙な調整をしないとならんから、いまいちだ。

つづいて好ましいのは、自転車。
詳しくは後述。

そして次が、飛行機。
あの飛び立つときの後ろに引っ張られる感じが、幼稚園児のころほどではないが、
感動を呼び起こす。

で、自動車。
思いのまま早く動けるし、流れていく景色や、
気分によって走り方をかえられるのが、自転車同様よろしい。

あとは、スキーとか、ローラーブレードとか、スケボーとか、
器具に頼りつつも随意に動けるものがつづき、
おおよそ最後らにくるのが、
タクシー、バス、そして、近距離電車(特に地下鉄は嫌い)である。

*新幹線や特急、寝台、ローカル鈍行といった足の長い電車は、旅情があるので、好き。

ゆえに通勤だろうがなんだろうが、
電車は極力避ける。お断りだ。

つまらない好悪だけれども。

**********************************************************************

雨の日に傘をささない性癖と同様に、
自転車は、なんだか、世界と素直につながっている気がしてよいのである。

ぐっと踏み込むと、周りは風の音とともに素早く近づいてきて後ろへ流れ、
たらーっとしていると、ゆるやかにうつろう。

ふらふらしたって、大丈夫。
坂道を登りきり、知らない向こう側をスリルとともに一気に下りさることだってできる。
歩道も車道も自在に進み、たいがいの道を、野原も、隙間も走れる。

あんまり駐禁も切られないから、わりあいどこでも行けるし、寄り道も可。

自転車には、冒険という言葉がぴったりなのだ。
しかも、からだによい運動でさえある。

たどりつけるかなぁ、という走り出す前の不安も、
たどりついた後の、おお走ったぞ、という満足もステキ。

ズボンの裾が、油っぽくなることさえのぞけば。
そして、会社で着替えたり、汗臭さを気にしなければいけないことをのぞいては。

**************************************************************

つまり、行き帰りはものすごく楽しくなり、
肝心の会社勤めそれ自体は、もさくなる。

この、会社でのもったり感を、どう解消したものかが、目下の課題ではある。

動きながら考える、
自転車での移動とおなじく、
自転車通勤という新たな習慣についても、
しばらく動きながら考えていよう。

いまは、ただただ楽しい。
それはとてもいいことだ。