公案1-5 シンメトリーと快 アシンメトリーと楽 | 逸脱と研鑽の公案

公案1-5 シンメトリーと快 アシンメトリーと楽

ここで皆さんに残念なお知らせが有る。

私、また海外出張となる。
ので、もはや禅味ある旅ブログは卒業、と思っていたのに、また旅レポートだ。

またすこし出張が国内外たてつづきそうなので、
どうも、旅ブログ化はさけられないようだ。 嗚呼。

さて、公案1世代の積み残しもあと2つ。

標記の、シンメトリーとアシンメトリーについての公案へいざ。

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シンメトリー=左右対称
アシンメトリー=左右非対称

という分類であるが、この世の具象すべてが半々にこの分類で分かれるのならばよいのだが、
そもそもそんなはずはない。

この宇宙の大部分を占める自然物は、ほぼアシンメトリーだからだ。

つまり、「シンメトリー」という、近代の感性ではわりに理想視されるものは、
創作された概念であり、その恣意性を表すかのごとく、
自然にあるものは、だいたいシンメトリーでない。

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しかし、シンメトリーの価値神話が生まれるのは、それは「見た目」の話だからである。

均整がとれ、全体に平等で、「完全」さすら感じさせる、左右対称なものたち。
近代の典型的美感覚からいえば、これほど重んじられるうるものはない。

しかしながら、私はあまのじゃくなので、とてもつまらなく思う。

そこには、こちらを受け入れる懐の広さはなく、
ただおすましして、自らの完璧さを誇るばかりである。

完璧はなるほど理想かもしれないが、
何事も満たされ果たされ仕上がってしまえば、あとは衰退あるのみである。

出来上がった瞬間から、衰退が始まる存在など、
そもそも出来上がらねばよいのではないかと思う。

シンメトリーなものたちも、またそうである。

完全球を掘り出したとしても、あとはひたすら
自らの完全さを損なう、風化のプロセスが待ち受けるだけだ。

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しかしながら、シンメトリーに対して、価値が認められているのも事実である。

思うにそれは、とても純粋な観念として意味が有るのだと思う。

中高とつまらなく聴いていた、幾何学の授業のように、
あくまで理念・抽象のものごととして、真円だの真球だの、正三角形だのは頭の中に存在する。

理念は当然風化はしないのだから、そこにはある種永遠めいた絶対感がある。

つまりは、我々は人工のシンメトリーなアイテムを目にしたとき、
そこで、幾何学的な抽象図像の具体化を見、
そして、理念よ永遠なれと、快を覚えるのである。

あくまで、具象物そのものの価値ではなく、それが描き出すアウトラインの純粋な抽象性の価値である。

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ここまでシンメトリーに関し、乱暴な雑感を書き連ねてきたが、
とても、肩が凝る話である。

ワーグナーの楽曲のように、そこには思弁の純粋性からくる高揚があるのであろうが、
そもそも論理とはあくまで人工的なものであり、
我々はシンメトリー文脈を続けるために、風化に負けないスピードで、
次々にシンメトリーな具象物を創り続けなければいけないのだ。

ただの抽象像にしかすぎないこれら。

途中で述べた通り、私はこのよの造形物の大半はアシンメトリーとおもい、
シンメトリーを疎ましく思う。

アシンメトリーには、ウィットや懐の深さや、息づかいが有る。
そうして、抽象像たるシンメトリーを嘲け嗤うかのごとく、
たいそうリアルに自らの存在を自然にさらけ出している。

そこには勢いがあり、脈動があり、風化をものともしない生命力がある。

そして、私が佳いと、楽しいと、感じるものも多々ある。

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アシンメトリーな大部分のものにとってみれば、
「シンメトリー? しゃらくせえ。奴らは生きていない。ひたすら死への坂を転げ落ちているんだ」
とでもシンメトリーに言ってやりたいのだろう。

生は確かに死への坂を転げ落ちることでもある。
しかし、生きようという意思や努力がそこにはあり、結果として迎える死に対しても、
あくまで生ける存在としてむきあうものである。

ただのお面にすぎないシンメトリーにはそれはない。